What is "π" ?
π は円周の長さと直径の比として定まる定数で,円周率(pi)やアルキメデスの定数(Archimedes' constant)とも呼ばれる.値は次の通りである.
π=3.14159265358979323846…
π は無理数であり,さらに超越数でもある.無理数であることは 1761 年にランベルトが,超越数であることは 1882 年にリンデマンが示した.超越数であることから,定規とコンパスだけで円と同じ面積の正方形を作る「円積問題」は解けないことが分かる.
半径 r の円の周の長さは 2πr,面積は πr2 である.また,角度を弧の長さで測る弧度法では半円の中心角が π になり,三角関数の微分が次のように簡単な形になる.
dxdsinx=cosx,dxdcosx=−sinx
このため π は幾何だけでなく,解析,確率・統計(正規分布),物理(波や振動)など多くの分野に現れる.
なお,本記事では角度はすべて弧度法で表す.
Origin of the Name
- 記号 π:ウェールズの数学者ウィリアム・ジョーンズ(William Jones)が,1706 年の著書 Synopsis Palmariorum Matheseos で円周と直径の比を表す記号として初めて使った.ギリシャ語の περιφέρεια(周)や περίμετρος(周囲の長さ)の頭文字に由来すると考えられている
- 普及:オイラーが 1730 年代からこの記号を使い,1748 年の『無限解析入門』でも用いたことで広まった
- アルキメデスの定数:正多角形を使って π を初めて理論的に評価したアルキメデスにちなむ
Definitions
π にはいくつかの定義の仕方があり,どれも同じ数を定める.代表的なものは次の 5 つである.
Geometric Definition
円周の長さを L,直径を d として,次のように定める.
π=dL
Area Definition
単位円(半径 1 の円)の面積を S として,次のように定める.
π=S
Integral Definition
π=4∫011+x21dx
Series Definition
π=4k=0∑∞2k+1(−1)k=4(1−31+51−71+⋯)
Differential Equation Definition
初期値問題 y′′=−y, y(0)=1, y′(0)=0 の解 y(x) の最小の正の零点を x0 として,次のように定める.
π=2x0
Derivations
ここでは Geometric Definition を出発点とし,残りの 4 つの定義がすべて同じ数を定めることを示す.流れは次の通りである.
- 円周の長さを正多角形の周で挟んで評価する(Archimedes' Method)
- 正多角形の周が実際に収束し,円周と直径の比が円の大きさによらないことを示す(Existence of the Circumference)
- 残りの定義との一致を 1 つずつ示す(Area Form,Integral Form,Series Form,Differential Equation Form)
各節がどの結果を使うかは次の通りである.
前提:曲線の長さと図形の面積について,次が成り立つものとする.
- 曲線の長さは,その曲線に内接する折れ線の長さの極限として定める.円周については次節で具体的に構成する
- 滑らかな曲線 y=f(x) (a≤x≤b) の長さは,上の定義と一致して ∫ab1+f′(x)2dx で与えられる(端点で f′ が発散する場合は広義積分とする)
- 合同な図形の長さ・面積は等しい.図形を r 倍に拡大すると,長さは r 倍になる
- 図形 A が図形 B に含まれるなら,A の面積は B の面積以下である
Archimedes' Method
π=dL の L は曲線の長さなので,直接計算するのは難しい.そこでアルキメデスは,円に内接・外接する正多角形の周で円周を挟んで π を評価した.
単位円に内接する正 n 角形の周を pn,外接する正 n 角形の周を Pn とする.円周の長さは 2π で,内接多角形の周より長く,外接多角形の周より短いと考えられるので,
2pn<π<2Pn
となるはずである.正六角形から始めて辺の数を 2 倍ずつにしていくと,値は次のようになる.
下の図の左は単位円に内接・外接する正六角形と正十二角形,右は表の値を n を対数軸にとってプロットしたものである.辺の数を増やすと,内接多角形(青)と外接多角形(オレンジ)の周が上下から π に近づいていく.

アルキメデスは正 96 角形まで計算し,71223<π<722(3.1408…<π<3.1428…)を得た.辺の数を増やすほど上下の値が近づいていき,その共通の極限が π である.
Existence of the Circumference
表を見ると 2pn と 2Pn は同じ値に近づきそうだが,数値を眺めるだけでは本当に収束するかは分からない.また,π=dL が円の大きさによらないことも確かめる必要がある.そこで,円周の長さを正多角形の周の極限として定め,これがうまく定まることを示す.
以下,n は 6,12,24,… を動くものとし,n の次の項を 2n と書く.
命題:数列 {pn} は狭義単調増加,{Pn} は狭義単調減少であり,pn<Pn かつ Pn−pn→0 である.したがって,pn と Pn は同じ値に収束する.
方針:単調性は三角不等式から示す.差が 0 に近づくことは,外接正 n 角形が内接正 n 角形を拡大したものであることから示す.
証明:
ステップ 1(pn の単調増加):内接正 n 角形の隣り合う頂点を A,B とし,弧 AB の中点を M とする.このように各辺の間に中点を加えたものが内接正 2n 角形である.三角不等式より
AB<AM+MB
なので,各辺を 2 本の辺に置き換えると周は長くなる.よって pn<p2n である.
ステップ 2(Pn の単調減少):外接正 n 角形の頂点 V の両隣の接点を A,B とし,弧 AB の中点 M での接線が辺 VA,VB と交わる点を Q,R とする.外接正 2n 角形は,外接正 n 角形の各頂点 V を切り落として辺 QR で置き換えたものである.三角不等式より
QR<QV+VR
なので,P2n<Pn である.
ステップ 3(pn<Pn と差の評価):内接正 n 角形の中心から辺までの距離を hn とすると 0<hn<1 である.外接正 n 角形は中心から辺までの距離が 1 の正 n 角形なので,内接正 n 角形を(回転したうえで)中心から hn1 倍に拡大したものと合同である.前提より長さも hn1 倍になるので
Pn=hnpn>pn
である.これとステップ 1,2 より p6≤pn<Pn≤P6 なので,{pn} は上に有界な単調増加数列,{Pn} は下に有界な単調減少数列であり,どちらも収束する.
差については
Pn−pn=pn(hn1−1)≤P6⋅hn1−hn
となる.内接正 n 角形の一辺の長さを sn とすると,三平方の定理より
hn=1−4sn2
である.sn=npn<nP6→0 なので hn→1 となり,Pn−pn→0 が分かる.
以上より,pn と Pn は同じ値に収束する.■
この極限を単位円の周の長さ L1 と定める.半径 r の円では,内接・外接多角形がすべて r 倍になるので周の長さは rL1 になり,
dL=2rrL1=2L1
は r によらない.これが π であり,L1=2π である.また,pn は狭義単調増加,Pn は狭義単調減少なので,すべての n で 2pn<π<2Pn が成り立つ.特に p6=6,P6=43 から 3<π<23 が分かる.
Area Form
命題:単位円の面積 S は π に等しい.
方針:円を内接・外接する正 n 角形で挟み,多角形の面積を周の長さで表してから,はさみうちの原理を使う.
下の図の左は,内接・外接する正十二角形を中心から n 個の三角形に分けたもので,青が内接側(底辺 s,高さ h),オレンジが外接側(高さ 1)の三角形 1 つを表す.右は,証明で使う 2 つの面積 21pnhn と 21Pn が上下から π に近づく様子である.

証明:内接正 n 角形は,中心と各辺を結ぶと n 個の合同な二等辺三角形に分けられる.各三角形は底辺 sn,高さ hn なので,内接正 n 角形の面積は
n⋅21snhn=21pnhn
である.外接正 n 角形も同じように分けると,各三角形の高さは中心から接点までの距離 1 なので,面積は 21Pn である.
内接正 n 角形は円に含まれ,円は外接正 n 角形に含まれるので,前提より
21pnhn≤S≤21Pn
となる.Existence of the Circumference より n→∞ で pn→2π,Pn→2π,hn→1 なので,両端はどちらも π に収束する.S は n によらないので,はさみうちの原理より S=π である.■
半径 r の円は単位円を r 倍に拡大したもので,内接・外接多角形の面積はすべて r2 倍になるので,同じ議論から面積は πr2 になる.
Integral Form
1+x21 は一見すると円とは関係なさそうに見える.しかし,円弧の長さを積分で書いてから変数を置き換えると,この形が現れる.
命題:
π=4∫011+x21dx
方針:単位円の上半分 y=1−u2 の弧長を積分で書き,置換 x=1−u2u で被積分関数を 1+x21 に変える.弧の長さそのものは円の対称性から求める.
下の図の左の塗りつぶした部分の面積が ∫011+x2dx である.置換をすると,この積分は右の図の赤い弧(点 (0,1) から点 (21,21) まで)の長さに変わる.この弧は円周を 8 等分したうちの 1 つである.

証明:
ステップ 1(弧長の積分表示):f(u)=1−u2 とおくと,−1<u<1 で
f′(u)=−1−u2u
であり,
1+f′(u)2=1+1−u2u2=1−u21
となる.よって前提の弧長の公式より,点 (0,1) から点 (a,1−a2) までの弧の長さ(0≤a<1)は
ℓ(a)=∫0a1−u2du
である.
ステップ 2(a=21 の弧の長さ):x 軸,y 軸,直線 y=x,直線 y=−x によって,円周は 8 つの弧に分かれる.これらの弧は,この 4 本の直線に関する折り返しを繰り返すことで互いに重なるので,前提よりすべて同じ長さである.円周の長さは 2π なので,1 つの弧の長さは 4π である.点 (0,1) から点 (21,21) までの弧はこのうちの 1 つなので
ℓ(21)=4π
である.
ステップ 3(置換):0≤u≤21 に対して x=1−u2u とおく.これは単調増加で,u=0 のとき x=0,u=21 のとき x=1 である.微分すると
dudx=1−u21+(1−u2)3/2u2=(1−u2)3/2(1−u2)+u2=(1−u2)3/21
となる.また
1+x2=1+1−u2u2=1−u21
である.よって置換積分より
∫011+x2dx=∫01/2(1−u2)⋅(1−u2)3/21du=∫01/21−u2du=ℓ(21)=4π
となる.両辺を 4 倍して,命題が示された.■
三角関数を使えば,この置換は x=tanθ(u=sinθ)とおくことに相当する.ここでは三角関数を使わずに,円の対称性だけで示した.
Series Form
Integral Form の被積分関数 1+x21 は,等比級数 1−x2+x4−⋯ の和の形をしている.これを項ごとに積分すると Series Definition の式が出てくる.ただし無限個の項を項別に積分してよいかは自明ではないので,有限個の項と余りに分けて扱う.
命題:
π=4k=0∑∞2k+1(−1)k
方針:1+x21 を n+1 項の等比数列の和と余りに分けて [0,1] で積分し,余りの積分が 0 に近づくことを示す.
証明:等比数列の和の公式に公比 −x2 を代入すると
k=0∑n(−x2)k=1+x21−(−x2)n+1
なので,
1+x21=k=0∑n(−1)kx2k+1+x2(−1)n+1x2n+2
である.両辺を 0 から 1 まで積分すると,∫01x2kdx=2k+11 より
∫011+x2dx=k=0∑n2k+1(−1)k+Rn
となる.ここで余り Rn は
Rn=(−1)n+1∫011+x2x2n+2dx
であり,0≤x≤1 で 1+x2≥1 なので
∣Rn∣≤∫01x2n+2dx=2n+31
と評価できる.n→∞ で Rn→0 なので,Integral Form より
4π=∫011+x2dx=k=0∑∞2k+1(−1)k
となる.両辺を 4 倍して,命題が示された.■
部分和を Sn=4∑k=0n2k+1(−1)k とおくと,証明の評価から ∣π−Sn∣≤2n+34 である.下の図の左は Sn をプロットしたもので,π の上下を交互に行き来しながら近づく.右は誤差 ∣π−Sn∣ と上の評価(bound)を両対数軸で比べたものである.

誤差はおよそ n1 でしか減らないので,誤差を 10−5 程度にするにも約 10 万項が必要になる.実際に π を計算するときは,マチンの公式など収束の速い式が使われる.
Differential Equation Form
単位円上を点 (1,0) から反時計回りに速さ 1 で進む点を考えると,その x 座標は「2 回微分すると符号が反転する」という性質をもつ.これが Differential Equation Definition の y′′=−y である.これを正確に示す.
命題:初期値問題
y′′=−y,y(0)=1,y′(0)=0
の解 y(x) の最小の正の零点は 2π である.
方針:単位円上の点を弧の長さ θ で表し,その x 座標 c(θ) がこの初期値問題の解であることを,Integral Form のステップ 1 の弧長の式から示す.次に解が 1 つしかないことを示し,c(θ) の零点を円の対称性から求める.
0≤θ≤π に対して,点 (1,0) から上半円に沿って反時計回りに長さ θ だけ進んだ点を (c(θ),s(θ)) とする.上半円の長さは π なので,θ=π で点 (−1,0) に着く.下の図の左がこの点を表し,右が初期値問題の解のグラフで,最初に 0 になる点が 2π である.

証明:
ステップ 1(c,s の導関数):−1<x<1 に対して,点 (x,1−x2) から点 (1,0) までの弧の長さは,Integral Form のステップ 1 と同様に
θ(x)=∫x11−t2dt
である(t=1 で被積分関数は発散するが,広義積分として収束する).微分積分学の基本定理より
θ′(x)=−1−x21<0
なので,θ(x) は (−1,1) から (0,π) への狭義単調減少な全単射であり,その逆関数が c(θ) である.逆関数の微分より,0<θ<π で
c′(θ)=θ′(x)1=−1−c(θ)2=−s(θ)
となる.さらに s(θ)=1−c(θ)2 を微分すると
s′(θ)=1−c(θ)2−c(θ)c′(θ)=s(θ)−c(θ)⋅(−s(θ))=c(θ)
である.
ステップ 2(θ=0 を含む区間への拡張):−π<θ<0 では下半円の点を考え,c(θ)=c(−θ),s(θ)=−s(−θ) と定める(x 軸に関する折り返し).すると (−π,0) でも
c′(θ)=−c′(−θ)=s(−θ)=−s(θ)
s′(θ)=s′(−θ)=c(−θ)=c(θ)
が成り立つ.θ=0 では c(0)=1,s(0)=0 で c,s は連続であり,θ→0 のとき c′(θ)=−s(θ)→0,s′(θ)=c(θ)→1 である.「連続関数の導関数が θ→0 で極限をもてば,θ=0 でも微分可能で微分係数はその極限に等しい」(平均値の定理から従う)ので,
c′(0)=0=−s(0),s′(0)=1=c(0)
となる.以上より (−π,π) 全体で c′=−s,s′=c が成り立ち,
c′′(θ)=−s′(θ)=−c(θ),c(0)=1,c′(0)=0
である.つまり c は初期値問題の解である.
ステップ 3(解の一意性):y1,y2 を 0 を含む区間で定義された初期値問題の解とし,w=y1−y2 とおく.w′′=−w,w(0)=w′(0)=0 である.E(x)=w(x)2+w′(x)2 とおくと
E′(x)=2ww′+2w′w′′=2ww′−2w′w=0
なので E は定数であり,E(x)=E(0)=0 となる.よって w≡0,すなわち y1=y2 である.したがって,初期値問題の解 y は (−π,π) で c と一致する.
ステップ 4(零点):0<θ<π で c′(θ)=−s(θ)<0 なので,c は [0,π) で狭義単調減少である.c(θ)=0 となるのは点が (0,1) にあるときで,上半円は y 軸に関する折り返しで 2 つの同じ長さの弧に分かれるので,そのときの θ は上半円の長さ π の半分の 2π である.よって 0≤θ<2π で c(θ)>0,c(2π)=0 となり,最小の正の零点は 2π である.
以上より,命題が示された.■
ここで定めた c(θ),s(θ) は cosθ,sinθ そのものである.つまりこの証明は,三角関数を単位円上の点として定義したときに (cosθ)′=−sinθ,(sinθ)′=cosθ となることの証明にもなっている.
最後に
忘れてたことをリストにしておこう!